星降る夜になったら2の続き(仮)

こつん、と目の前の傘と私の傘がぶつかって思わず立ち止まる。
なのに目の前の傘の持ち主は歩みを止めない。振りかえりもしない。
その視線は、おそらくPFPに落としたまま。
だんだんと開いていく距離がなんだか悔しくて、あわてて駆けだした。

右足が水たまりを踏みつけて、泥水がおろしたての靴下にはねる。
…ああ、もう!!
どこにぶつけたらいいのか分からないイライラを胸の内に飲み込んで、私はアイツの後ろを歩く。

雨が傘を叩く音。
むせかえりそうなコンクリートと土のにおい。
自動車が大げさに水しぶきをあげて真横を通る。

そこには言葉は一つもなかった。
どんな言葉を選んだら良いのか、私には分からなかったし、アイツが言葉を必要とするとも思えなかった。



歩みが止まったのはバス停の前だった。
完全防水の加工が施されているであろうPFPと、大きめの傘を手にもつアイツの周りにはまるで結界があるようで、ひどく近寄りがたい。
…ちょっとでもはしゃいだ自分が馬鹿みたいだ。
悲惨なことになった真新しい靴下を見ていると、何を着ていくか1時間鏡の前で悩んだ自分に心底呆れてしまう。

バスがやってきてもアイツの視線はそのままの状態を保っている。
声をかけるのも面倒だったのでさっさと傘をたたんで先に乗り込んだ。
瞬間、カラン、と乾いた音がしてポケットから何かが落ちた。

――雑誌の付録だった、かのんのリボンキーホルダー。
水たまりの中、泥だらけになったそれを目の前の男が躊躇なく拾う。
「…落としたぞ」
一緒に歩いて、バス停まできて、初めて聞いた人間の言葉。
さしだされたキーホルダー。
たったそれだけの言葉に、たったそれだけの行為に、私はなぜだかとても驚いて固まってしまった。
「いらないのか?」
少し不審そうにこちらを見る顔。今日初めて見る、アイツの表情。

「…ありがとう」
私は、まだこれを捨てられない。
かのんの輝きを借りないと、きっと前へ進めない。

キーホルダーを受け取って窓際の席に座ったら、躊躇なく隣の席に座ってきた。
―――やっぱり何考えてるかわかんない、こいつは…。